2012年12月17日月曜日

 エコ・バーディングの時代へ



 <神奈川支部 前支部長 浜口哲一>

           1998年1月支部報より

 今年は神奈川支部が誕生してから46年目にあたっている。会員数も約3500名を数えるまでになり、我々の支部、そして野鳥の会が日本の社会の中に着実に根を下ろしてきたことは確かなことであろう。
 来世紀に向けて、さらに会員を増やし、組織をしっかりしたものにしていきたいと思う。と同時に、我々が続けている活動自体を虚心に振り返る必要を感じるこの頃でもある。
 たとえば、役員会の中で、最近の探鳥事情としてこんな話がでる。「水場でカメラをかまえたままで大声で話しながら鳥を待っている人たちがいた」「サンコウチョウの巣の真下で弁当を食べていた人がいた」・・。こういう人は野鳥の会の会員ではないのではという意見もあるだろうが、探鳥会の時にも、歩きながら声高におしゃべりを続けている人はいないだろうか、観察の列が広がって畑に踏み込むようなことは起こっていないだろうか。
 フィールドマナーを守るということは、支部のモットーとして、口を酸っぱくするほど訴えてきたことだが、相変わらずそれがしっかり守られてはいないようである。その背景には、鳥を見る楽しみは、自然が我々に与えてくれているのだということへの感謝の気持ちが忘れられていることがあるのではないだろうか。
 さらに、マナーという言葉だけでは片づかない問題もいろいろ起こっているように感じられる。
 多くの人が、望遠鏡やカメラを手に一ヶ所に集中すること自体が、鳥の繁殖をおびやかしたり、植生を痛めたり、農耕地を踏み荒らしたりする原因になっているからである。
 近年、環境への負荷という言葉がしばしば使われる。開発のような自然の改変でも、個人的な野外活動でも、それが欠かせないものであるなら、その環境への影響を可能な限り小さくすることが求められており、探鳥も例外ではない。たとえば、サシバの渡りを観察する時に、舗装された駐車場で見るよりも、草原の上で見た方が気持ちがよいだろう。しかし、大勢が踏みつければ、草地を痛める恐れがある。そんな時に、気持ちの良さは二の次にして観察場所を選ぶ判断が必要である。
 みんなが自分の欲望のおもむくままに行動するのではなく、環境への影響を考えて自制する心構えこそ求められているのである。

 そうした観点で、支部の行事の持ち方も見直す必要がある。 大勢で歩いてもよい場所を慎重に選んで探鳥会を開き、それが不適当な場所は、紹介にとどめて会員が小人数で個人的に探鳥するようにする方がよいだろう。
 行事で集まった時に、何か環境に貢献できる工夫を考えてみることも必要である。新年度に計画されている城ヶ島のゴミ拾い探鳥会はその初めの一歩になるだろう。また、観察者が低密度に分散していた方が、環境への負荷は少なくなるから、会員各自が地元での観察を大事にして、自分流の楽しみ方を見つけるのも大事なことである。
 神奈川支部では、目録作りやBINOSの刊行などを行ってきたが、その大きなねらいは、自分のフィールドでの観察の充実にあることを思い出してほしい。

 (財)日本野鳥の会では会員30万人を目指している。仲間が増えて社会的な発言力が大きくなることは好ましいことではあるが、今のままでは外部から見た時に、会が大きくなることをみんなに喜んで迎えてもらえない恐れがある。
 我々が目指すべき、自制のきいた行動をともなう探鳥のあり方をエコバーディングと名付け、残りの今世紀の支部活動の方向性としていきたい。







営巣地での観察・撮影の注意
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