2014年9月28日日曜日

支部からのメッセージ ~はばたき2014年10月号

 珍鳥情報の取り扱いについて


●全面的否定はしないけれど

 日本野鳥の会が発行しているフィールド日本の野鳥の著者である故高野伸二氏はご自身の著書「野鳥を友に」(朝日新聞社1985 年刊)の中で、こう述べられています。『珍しい鳥を見るということに無上の喜びを感じる人がいる。珍しいものに出会ったり、珍品を手に入れた時の嬉しさは何も鳥だけの場合ではない。決して※ rarity hunter にはなりたくないが、珍しい鳥に出会った時の感情は否定できないし、この感激をおぼえない人は、野鳥観察者として長続きしないように私は思える。』インターネットが普及した現在とは状況が異なる30 年も前の文章ですが、これはこれとして納得ができます。(※この場合は珍鳥ハンター) 近年、珍しい野鳥が発見されると直ぐにブログなどで公表されるようになりました。また、その情報をもとに出かける人も多いと思います。野鳥を見ることが単なる個人の趣味と言うことであれば、誰がどこで何を見て楽しもうと他人が口出しをすることではありません。情報に頼って「珍しい鳥を追いかける」ことも、発行された切手を収集するのと同じで、本人さえ楽しければ趣味としては他人から批判を受けるものではないからです。しかし、弊害があれば別問題です。


●弊害の例

ご存知のように、情報によって多くの人が集まることで弊害が起こります。これは、珍鳥に限った事ではありません。一つは鳥自体に関わること。もう一つは周辺でくらす人に関わることです。情報によって鳥を見に来る人は地元の事情も知らず、「その鳥を見る」「画像を撮る」ことだけを目的に来るのです。マナーを知らないビギナーから、知っていながら撮影の欲望を抑えられないベテランまで不特定多数の観客が訪れるのです。少し例を挙げますと『トラフズクの集団冬ねぐら(昼間の休息地)に多くの人が集まり、近づき過ぎてトラフズクがねぐらの場所を移動してしまった。』『田んぼに飛来したタゲリを撮影するために農道に車が多く入り、農業者の車が通れなくなった。』『人家の庭に営巣した野鳥撮影のために、望遠レンズの砲列ができて住人に迷惑をかけた。』こんな例は全国に多くあります。再び高野氏の引用になりますが、『アメリカでカラフトフクロウが発見されると、多くの人が集まり、侵入して畑を踏み荒らしたりしたため、土地の所有者がカラフトフクロウを撃ち殺してしまった。』これは有名な話です。情報を聞いて見に行った一人一人には罪の意識がなく、多くの人に混ざって見たり撮影をしてその場を立ち去ります。しかしそんな事態が、鳥がいる限り永遠と続くことがあるのです。


●解決策と野鳥の会の役割は

 では、それを解決する方法があるのでしょうか。一つは以前にも支部からのメッセージで書きましたが、リアルタイムでの情報を流さないことです。これが「駐車場完備」「鳥は柵の向こう側」「観客席あり」「監視員あり」という状況であれば情報が流れても、大きな問題は起こりません。実際に自治体で保護している鳥を決められた場所から見せたり撮影させたりしている所もあります。
 最近、神奈川県で出現した珍しい鳥でも、ほとんど情報が流れなかったものがあります。そして時間をおいてから支部報「はばたき」やバイノス(神奈川支部研究年報)に記録として投稿されました。私はこの方たちに拍手を送りたいと思います。リアルタイムでの情報を流さず、後日きちんとした情報を記録として残したのです。逆に多くの人が見に行ったのに、その行動などがほとんど記録として残っていない例もあります。
 20 年ほど前のある年、江ノ島にオオグンカンドリが逗留しました。その時に前支部長の故浜口哲一氏は、こんなことを述べられました。「多くの人が足を運んで観察する機会があるのならば、より多くの観察記録を残すことも考えた方が良いのでは」と。つまり、観察した人がその記録を支部「はばたき」や鳥類目録、バイノスなどに投稿して欲しいということです。きっかけは珍鳥であれ、その行為から情報に頼った鳥見を卒業し、野鳥の観察に歩を進めることができるかもしれないのです。支部の役割としては、そんな人たちをできるだけ多く育てていくことです。
珍しい鳥などを発見したら、次のようにしましょう!

①リアルタイムでの情報を流すことの弊害を考える
②弊害があれば、情報を流さず少人数でよく 観察する※
③後日「はばたき」「バイノス」「鳥類目録観察カード」などで報告し、記録を残す。

※神奈川支部の鳥類目録編集員会では、県内初記録種の場合で証拠写真がない場合、複数
人での観察を記録公認の条件としています。

                                        (支部長 鈴木茂也)