2015年4月4日土曜日

次世代に残したい神奈川の自然            第1回:多摩川河口干潟

 2015年4 月から神奈川支部では、「次世代に残したい神奈川の自然」として表紙写真と連動した短期連載を始めます。開発問題や自然再生や地域の産業と連動して神奈川県内の環境をピックアップします。今回は、道路建設で署名活動をしている多摩川河口を取り上げます。


 多摩川河口干潟は、埋め立て等により多くの干潟が失われた東京湾奥部にあって、なお良好な干潟生態系をとどめており、プランクトンからゴカイ類、貝類、藻類、甲殻類、魚類、渡り鳥に至る多様な生物空間を形作っています。また、この生態系により、水質の浄化機能や、有用な魚介類の稚仔魚を育成する機能を担っています。都会の中で本物の自然に触れられる場所として、多くの人が自然観察や散策等に利用しています。

 科学的にも、多摩川河口干潟で確認されたレッドデータブック掲載種は、環境省基準で14種、神奈川県基準で37種に及び、山階鳥類研究所による標識調査結果によれば米国アラスカ州、豪州各地などから定期的にシギ・チドリ類の渡りが確認されています。こうしたことから、多摩川河口干潟は、環境省の「日本の重要湿地500」及び「モニタリングサイト1000事業シギ・チドリ類調査地」に、また国土交通省により策定された多摩川水系整備計画でも「生態系保持空間」に位置づけられ、バードライフ・インターナショナルが選定した重要野鳥生息地(IBA)「東京湾奥部」にも指定されています。

 神奈川支部では、2006年から継続して多摩川河口の保全を神奈川県などに要望して来ました。しかし2014年から国際戦略特区の構想で「羽田連絡道路」の建設がスケジュールに上がりました。首都高速湾岸線の補完的な意味がある国道357 号線と「羽田連絡道路」の平行整備という案です。その結果多摩川河口周辺5kmの範囲に5本の道路が整備される事になります。これは非常に無駄な公共事業と考えます。 多摩川河口干潟は、長期的に渡り鳥の利用は減少しています。1つの理由は、羽田空港の第4滑走路増設の影響が考えられます。しかし、干潟環境を分断する橋梁案の道路計画は鳥類の利用に壊滅的な影響を与えます。吉野川では、徳島県での調査結果からも、架けられた橋の上流部では鳥類が大幅に減少しているデータが出ています(徳島東環状線阿波しらさぎ大橋環境モニタリング調査:平成24) 。 2014年10月には、(公財)日本野鳥の会、WF-J、日本自然保護協会による意見書も関係各機関に提出されました(神奈川支部HP参照)。日本では、環境への配慮に関しては事業計画が確定してから、その事業を行う事を前提にアセスメントが行われます。環境への配慮は無きに等しい現状です。2007年「多摩川河口の自然を考えるシンポジウム」において戦略的アセスメントの必要性も提案しました。環境への影響がある場合は、事業中止を含める、総合的なアセスメントです。2007年から十分に時間が経過している現在でも、環境調査は行われていません。生物多様性国家戦略や海洋基本法で規定されている、保全戦略は、現実の行政施策には反映されなく意味を成していません。

 2014年 2月段階では事業主体も決まっていませんので、今後の経過は不明です。道路計画を含めた大田区側の都市計画などを含めて、情報を集めた上で議論を深めたいと思っていますが、残念な事に川崎市や大田区には道路計画の議論が起きていません。市民感覚で税金の利用方法や地元の環境保全について理解を深める方策についてもNGO側も考える必要があます。引き続き署名活動も展開中です。ご協力をお願い申し上げます。
                     (副支部長:石井隆)