2015年6月1日月曜日

次世代に残したい神奈川の自然(3)

大磯町 照ケ崎海岸 のアオバト                             

 (こまたん 金子 典芳)


アオバトは森に棲む緑色の美しいハトで、海水を飲む変わった行動でも知られています。夏の間、海水を求めて繁殖地である丹沢山地から遠く離れた照ヶ崎海岸に飛来します。
 照ヶ崎海岸はアオバトの集団飛来地として1996 年に神奈川県の天然記念物に指定されました。飛来規模は国内最大級ですが、磯遊びでにぎわう場所でもあり、人とアオバトが
共存しています。

<飛来の様子>
 4 月末から5 月初旬に飛来し始め徐々にその数を増し、6 月から9 月にかけて多く飛来します。朝10 時までに延べ数千羽を数え、数百羽の大きな群れが岩場を覆い尽すこともありま
す。森では人の気配ですぐに飛び去る神経質な面を知る人は、人前に集団で現れ海水を飲み、その一部始終をじっくり観察できることに驚きます。10 月中頃から徐々に減り11 月の初旬頃にその年の終認となります。

<命がけの海水吸飲と理由>
 台風接近で海が荒れた日にも海水を求め岩場に降りて波にのまれて命を落としたり、ハヤブサが現れて捕まるものもいます。なぜ命がけで海水を飲むのか?この謎に長く挑戦してきた結果、色々な事がわかってきました。

1.夏の食べ物は果実(液果)に特化
 岩場でアオバトが落とした糞の内容物(種子を調べ、サクラ・ミズキ・ヤマブドウなどナトリウムをほとんど含まない液果を食べることを確認しました。その中に丹沢の標高1000m 以上の場所に分布するミヤマザクラの種子があったことから、丹沢から来ていることも判りました。

2.子育てはピジョンミルク
 他のハトと同様に体内から分泌するピジョンミルクを雛に与えます。その元となる水分と栄養の吸収に欠かせないナトリウムを海水に求めていると考えています。丹沢で子育ての様子を観察し、親鳥の分担などもわかりました。

3.お泊りするアオバト
 照ヶ崎への飛来はまだ薄暗い日の出頃から始まります。30km も離れた丹沢を暗いうちから出発したのではなく、海岸近くの森で前泊していました。巣を守る♂♀の交代や途中の採食などと組合せた変わった行動です。繁殖地、海水吸飲地、採食地、そしてお泊りをする海岸付近の森など、多くの環境を利用しています。

<アオバトの環>
 海岸と丹沢の途中の森で液果を食べ、ピジョンミルクに変えて雛に与えます。一方、液果の種子を糞と一緒に種子散布して丹沢から海に続くグリーンベルト造りの役割もはたしています。グリーンベルトに生息する猛禽類には自らが餌となり、その食べ残しは森の小動物に、最後は土となり森を支えます。川は森の栄養を運び、途中の緑を潤わせ、再び海岸でアオバトが口にします。この自然のつながりをアオバトの環と呼んでいます。
 また、各地のアオバト情報を共有し、渡り行動なども含めた広い視点でアオバトのふしぎに関る人のつながり、これもアオバトの環です。

<日本各地のアオバトの環>
 夏は日本各地に広く分布し、海が遠い内陸部では温泉水や家畜のし尿などからナトリウムを得ています。冬は多くが西日本に移動し、森でドングリを主食に静かに暮らしています。京都御苑での越冬について関西のこまたんメンバーが調査・報告し、都市公園も大切な越冬地であることを明らかにしました。
 深い森で子育てし、緑の中で液果を食べ、海岸で海水を飲む。公園でドングリを食べる。
人の環も含めたアオバトの環は、日本の多様な自然の大切さを教えてくれています。

<いつまでも>
 照ヶ崎の防波堤に立ち、改めてアオバトを見ながら、彼らが日本の多様な自然の中で生きていることに想いを馳せてみてください。いつまでも照ヶ崎にアオバトが飛来することを願う気持ちを次世代に伝えていきたいと思います。