2016年4月18日月曜日

<かわさき見聞記>多摩川で野生動物に触れる幸せ 


干潟ネット・佐川さんと歩く

    

 川崎市川崎区と東京都大田区の境にある多摩川には、東京湾で最も大きい河口干潟がある。自然環境団体の評価は高いが、市民の関心は今ひとつ。それは臨海部にあって生活圏から離れることや、干潟を見られるかどうかは潮の満ち引き次第、といった諸条件からくるのかもしれない。
 そこで楽しみ方として、干潟が見えない時間帯でも楽しめる水鳥たちの姿を、川崎駅に近い六郷橋と、その下流にある大師橋の間で追ってみた。

 案内してくれたのは、NPO法人多摩川干潟ネットワーク理事長の佐川麻理子さん(54)。同法人は、多摩川の自然を紹介する大師河原水防センター干潟館(川崎区大師河原)を拠点に活動している。
 佐川さんの「何十羽といるのはヒドリガモですよ」という言葉に驚いた。カモは水の中にいるもの、と思っていたが、河川敷のグラウンドにいたからだ。ヒドリガモの雄は、顔が赤色がかった褐色で頭が白っぽい。雌は全体に褐色。頬が緑色に美しく輝くアメリカヒドリの姿も見つかった。ヒドリに比べて数が少なく、野鳥愛好家同士で「今日はどこにいた」と情報交換する人気の鳥だ。
 ほかに「コウコウ」と鳴くセグロカモメ、ツグミもいた。多様な野生の生き物が暮らす場で同じ空気を吸う幸せが、簡単に手に入った。
 大師橋の上から望遠レンズ越しに、これもカモの仲間のキンクロハジロ、全体に黒色で首を前後に動かして泳ぐオオバンを見る。上空をダイサギが飛ぶ。東京側へ渡り終えて橋の下へ。佐川さんが河原で大きめの流木をどかし、手を入れると、アカテガニに指先を挟まれた。クロベンケイガニも並んで潜んでいた。珍しいそうだ。
 六郷水門(大田区南六郷)近くのアシ原では絶滅が心配されるセイタカシギが三十羽ほど集まっていた。「通常の群れはもっと少ない。渡りに向けて集まっている」と佐川さん。岸近くには尾羽が黒く長いオナガガモのペアが休んでいた。カモの多くは冬越しを終えるとシベリア方面へ向かうが、四、五月にはくちばしの長いシギや、小走りする姿の愛らしいチドリが姿を見せるという。
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 干潟の露出する時間帯ならカニなどの観察も楽しい多摩川河口干潟とその周辺。いま大師橋下流部の干潟を横断して橋を架ける「羽田連絡道路」の構想が東京五輪に向けて進んでいる。日本野鳥の会、世界自然保護基金(WWF)ジャパン、日本自然保護協会は、川崎市や東京都、国に対し、市民や非政府組織(NGO)と合意形成できる協議の場、時間を求めた。WWFジャパン自然保護室の前川聡さんは「連絡道路は必要だと市民と合意形成されれば、影響を最小限に、と知恵を出し合う話にも進んでいける」と語る。
 川崎市臨海部国際戦略室はこの要望に「市だけの事業ではなく関係者との調整が必要だ」と前置きしつつも「環境配慮は重要で、対応を検討している」としており、注目される。

2016年2月25日 東京新聞